健康・生物医学研究のプレスリリースを対象とした
Stempraベストプラクティス・ガイド

医学・健康研究に関して特に重要なことは、説得力のある報道と正確さの間で適切なバランスをとることです。なぜなら、メディア報道がきっかけで、治療に対する過度の心配や時期尚早の期待が生じる可能性があり、さらには読み手が行動を変えることすらあるからです。一般の人びとが最良のエビデンスを入手できることや、新しい研究成果がメディアの記事の文脈で責任をもって描かれることがとても大切であり、プレスオフィサーはその点において大きな役割を果たしています。

The Academy of Medical Sciencesが発表した最近の報告書(https://acmedsci.ac.uk/file-download/44970096)では、調査に回答した人の3分の1しか医学的エビデンスを信用していないことが明らかにされており、科学界がこの問題を改善していくための方策も提案されています。Stempraはこの報告書で推薦されている数多くの団体のひとつであり、推薦理由は、プレスオフィサーに対してベストプラクティスを促す行動指針を策定したことです。この目標を達成するため、特に生物医学研究のプレスリリースを対象としたベストプラクティス・ガイドを下記のとおり作成しました。

生物医学研究のプレスリリースで
注意すべきこと

  • 研究成果を正確に反映し、大げさな誇張(‘hype’)をしないこと(特にプレスリリースのタイトルと第一パラグラフ)。「画期的な成果(‘breakthrough’)」や「病気が治る(‘cure’)」等のことばは、当該研究者と、できれば第三者が、完全に確信している場合にのみ使用すること。患者に誤った期待を抱かせないよう気をつけること。
  • 当該研究の補足や限界を盛り込むこと。例えば、研究の参加者数や、研究者がコントロールできない要素があったかどうか、研究成果の中に直接の測定によってではなく調査等によって得られたものがあったかどうか、等。
  • 当該研究で用いたのは細胞株か、動物モデルか(何の動物を用いたか)、ヒト胚か、もしくは人を対象とした研究か、明確にすること。
  • 研究の種類を明記すること。例えば、もしそれが臨床試験であるなら、無作為化試験なのか、比較試験なのか、二重盲検試験なのか、第Ⅰ相~第Ⅲ相試験なのか。それとも観察研究なのか。あるいはそれが新規の研究なのか、過去に行われた研究のデータを用いたメタアナリシスなのか、その両方を組み合わせたものなのか。
  • 何について当該プレスリリースを行うのかを明確にすること。例えば、論文誌に掲載予定の査読付き論文なのか、未発表データについての学会発表なのか、エディトリアルやオピニオンなのか、等を「ジェーン・スミス教授による“論文誌XXXXに掲載されたオピニオンである”」というように記載すること。
  • 報告された成果が相関関係なのか因果関係なのかを明確にすること。単に関連性があるだけの場合には「XがYのリスクを高めた」等の因果関係を示す表現は避けること。
  • 可能であれば、相対リスクだけでなく絶対リスクも盛り込むこと。それが難しい場合には、「一般集団において三千人に一人の割合でこの病気にかかる」というように、予備知識として役立つリスク情報を盛り込むこと。
  • オッズ比等の、理解しづらい統計概念を用いるのは避けること。
  • 過去のエビデンスの重要性も含めた研究の背景を盛り込むこと(特に、発表予定のものが議論を呼ぶ内容や意外な内容であったり、これまでの考えと相反する内容であったりする場合)。
  • プレスリリースで発表する内容が、当該研究から直接得られた成果なのか、それともより広い内容の解説や外挿なのか、明確にすること(特に健康面のアドバイスを含んだ内容である場合)。
  • 内容の正確性について、当該研究者から入念な確認を得ること。プレスリリースで大胆な主張を行う場合や、当該研究がまだ査読を受けていない場合には、当該組織で研究に関連のある上位研究者(例えば、学部長、医長、部長等)に助言を求めることも賢明な判断かもしれない。
  • 可能であれば、当該研究論文へのリンクを提供すること。出版前にそれが可能かどうかは論文誌によって異なるが、報道解禁日時(エンバーゴ)が定められた論文の写しは、記者が求めた際に送れるよう、準備しておく必要がある。論文が出版されたらすぐにウェブサイトやソーシャルメディア上でリンクを提供すること。全ての人が、論文誌の購読契約なしで掲載論文の全文を読めるとは限らないが、少なくともアブストラクトを読むことはできる。
  • 医学研究のプレスリリースには、次節で紹介しているプレスリリース・ラベリングシステム(press release labeling system)を採用すること。詳細は次節および以下のURL参照。
    http://www.sciencemediacentre.org/a-new-labelling-system-for-medical-research-press-releases/

※Stempra Guide to being a Media Officer (p. 14, 15)をStempraの許諾を得て翻訳